心疾患による障害
心疾患による障害
- 心疾患の障害等級の認定は、最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を評価することである。
- 心疾患による障害は、弁疾患、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、難治性不整脈、大動脈疾患、先天性心疾患に区分する。
- 心疾患の主要症状としては、胸痛、動悸、呼吸困難、失神等の自覚症状、浮腫、チアノーゼ等の他覚所見がある。
臨床所見には、自覚症状(心不全に基づく)と他覚所見があるが、後者は医師の診察により得られた客観的症状なので常に自覚症状と連動しているか否かに留意する必要がある(以下、各心疾患に同じ)。重症度は、心電図、心エコー図・カテーテル検査、動脈血ガス分析値も参考とする。 - 肺血栓塞栓症、肺動脈性肺高血圧症は、心疾患による障害として認定する。
- 心疾患の検査での異常検査所見
A 安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波
(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの
B 負荷心電図(6Mets 未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
C 胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの
D 心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、
先天性異常のあるもの
E 心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの
F 左室駆出率(EF)40%以下のもの
G BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml 相当を超えるもの
H 重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3 本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの
I 心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの
- 一般状態区分表
(ア)無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
(イ)軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの
例えば、軽い家事、事務など
(ウ)歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの (エ)身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの (オ)身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの - (参考) 上記区分を身体活動能力にあてはめると概ね次のとおり
(ア)6Mets 以上
(イ)4Mets 以上6Mets 未満
(ウ)3Mets 以上4Mets 未満
(エ)2Mets 以上3Mets 未満
(オ)2Mets 未満
弁疾患
【1 級】
- 病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
【2 級】
- 人工弁を装着術後、6ヶ月以上経過しているが、なお病状をあわらす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2 つ以上の所見、かつ、病 状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに 該当するもの
【3 級】
- 人工弁を装着したもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1 つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
- 複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則3 級相当とする。
心筋疾患
【1 級】
- 病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
【2 級】
- 異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2 つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
【3 級】
- EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1 つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
【1 級】
- 病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
【2 級】
- 異常検査所見が2 つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
【3 級】
- 異常検査所見が1 つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1 つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
難治性不整脈
【1 級】
- 病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
【2 級】
- 異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
【3 級】
- ペースメーカー、ICDを装着したもの
- 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち1 つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
- 心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となる。
大動脈疾患
【3 級】
- 胸部大動脈解離(Stanford 分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
- 胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの
- 難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の修正を行った上で、適切な薬剤3薬以上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が140 mmHg 以上又は拡張期血圧が90mmHg 以上のもの。
- 大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することはなく、また最近の医学の進歩はあるが、完全治癒を望める疾患ではない。従って、一般的には1・2 級には該当しないが、本傷病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症によっては、さらに上位等級に認定する。
先天性心疾患
【1 級】
- 病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
【2 級】
- 異常検査所見が2 つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
- Eisenmenger 化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
【3 級】
- 異常検査所見のC、D、Eのうち1 つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
- 肺体血流比1.5 以上の左右短絡又は肺動脈収縮期圧50mmHg 以上のもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
重症心不全
- 心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は、次のとおりとする。ただし、術後は次の障害等級に認定するが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定する。
- 心臓移植 1級
- 人工心臓 1級
- CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)2級
- 心臓ペースメーカー、又はICD(植込み型除細動器)、又は人工弁を装着した場合の障害の程度を認定すべき日は、それらを装着した日(初診日から起算して1 年6 月以内の日に限る。)とする。
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